系統学1
長谷川政美
チャールズ・ダーウィンは、生物進化の様子を、枝分かれを繰り返しながら伸びていく1本の樹になぞらえて「生命の樹」Tree of Lifeと呼んだ。それまでの進化論は、「自然の階段」を登るような前進的な進化という考えにとらわれていたが、ダーウィンは、「共通祖先からの進化」という考えを明確に示した。エルンスト・ヘッケルはこれを「系統樹」Phylogenetic Treeと呼び、その後、生命の樹を構築する学問は系統学と呼ばれるようになる。初期の系統学は、主に形態の比較によるものであったが、適応的な形質では収斂進化が起るため、似たような特徴が祖先を共有することによるものか、収斂によるものかを区別することがしばしば困難であった。そのため、20世紀の終わり頃からは、形態とは独立の証拠に基づいた分子系統学が主流となってきた。分子系統学によって、系統関係を確立したあとで、それに基づいて形態の進化を論ずることができるようになってきた。21世紀に入ると、生物学のあらゆる分野でゲノム情報が前提となるポストゲノム時代が到来し、分子系統学の分野でもゲノムの大規模データを用いた解析、ゲノム系統学Phylogenomicsが盛んに行なわれるようになってきた。
本講義では、分子系統学の歴史を振り返り、現在の分子系統学におけるさまざまな問題点について議論する。
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