2017年8月3日 系統学2

系統学2(岸野洋久)

系統学2では分子進化の統計解析の方法を中心に話題提供します。特に分子進化速度に光を当てて、統計的モデリングのアイデアをご紹介します。種間でゲノムを比較して進化の歴史をたどるとき、私たちが観測しているものは集団に固定された突然変異の集合です。中立説により、こうした集団中に生じる突然変異の多くは、中立あるいは有害な変異で、有利な変異は割合からするとほとんど無視できます。集団に固定されない有害な変異は観測されないので、分子進化速度は突然変異率と中立な変異の割合で表現されます。分子進化速度の一定性の作り出す分子時計からは、これら二つの要素が安定しており、あまり変化しないことが伺われます。分子時計という物差しでは説明のつかない残差は、突然変異率の変化、あるいは中立な変異の割合の変化と解釈されます。前者の背景には放射線など変異原への暴露量の変化や世代の長さの変化が考えられますが、これらの要因はゲノム全体に一様に影響を与えます。一方、後者の変化には機能的な制約の変化や遺伝子の発現量の変化などが考えられますが、これらは遺伝子ごとに個別に働きます。ゲノムを構成する数多くの遺伝子の進化系統樹を比較分析すると、分子進化速度の共通性として突然変異率の揺れに関する情報が得られます。また分子進化速度の揺れの個別性の情報を利用して、行動や形態の種間比較からその多様性の遺伝的背景を推測し、歴史を辿ることができるでしょう。

 

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