人間の進化は、これまでとは比較にならないぐらい、くわしく調べられつつある。十数年ほど前までは、ヒトゲノム中のわずか数十か所を調べることしかできなかったが、現在では百万か所を調べることが簡単にできる。これは、あたかも電子顕微鏡の登場によって、光学顕微鏡に比べて数万倍も解像度があがった細胞学における大変化に匹敵する、人類進化学における一大ジャンプなのだ。本セミナーの「人類進化2」で神澤秀明講師が紹介する縄文時代人のゲノムDNA研究も、この「革命」の恩恵を受けて莫大な情報が得られ、縄文人の起源について、まったく新しい展開をみせている。
さらに、最近の急速な技術革新により、十年前には数億円の研究費をついやし、数年かけてようやく決定することができたヒトゲノムの塩基配列が、現在では、わずか十万円程度で決定できるようになってきた。日本でも、東北大学のメディカルメガバンク機構は、宮城県に在住する千人のゲノム配列を2014年に決定している。ゲノム配列を多数の人々について決定できれば、それらの膨大な情報は、革命を持続させるおおきな波となって、人類のルーツ研究が進むだろう。本講義では、人類遺伝学におけるこれらの「革命」によってわかってきた、現代人の進化を論じる。
具体的な講義の内容は、次のとおりである:
(1)個人を単位とした主成分分析(PCA)と祖先集団解析 (Structure, Admixtureなど)の説明
(2)集団を単位とした系統樹解析(NJ, NeighborNet, TreeMixなど)の説明
(3)集団差の大きなゲノム領域に存在する遺伝子の探索
(4)ハプロタイプ推定(Phasing)
(5)他集団からの遺伝子移入(introgression)の識別
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