2017年8月5日
古代DNA(瀬川高弘・森宙史)
DNAやアミノ酸配列を対象にした集団遺伝学や分子進化学の各種理論や解析手法は,生物の進化史を推定する上で非常に強力であるが,現生の生物の遺伝情報のみからではその生物の進化史を精度良く推定することが困難な場面も多い. 従来,過去の生物の形質や特徴を推定するために化石記録と形態分析が広く用いられてきたが,系統間の形質の類似性が収斂進化によるものなのか否かの区別が難しい等の制約があった. DNAやアミノ酸配列を基にした分子系統学や分子進化学の知見を過去の生物にも適用するために,1980年代から,様々な年代の試料や絶滅生物の標本から過去の生物の遺伝情報(古代DNA)を直接得る試みが行われてきた. 現在では,特にここ十年ほどの間の分子生物学的手法の改良や次世代シーケンサー等の技術革新により,古代DNAを用いた進化生物学・集団遺伝学の研究がヒトや動植物・病原菌等の様々な生物で盛んに行なわれている. しかし,古代試料は通常残存している対象生物のDNA量が希薄であるとともに,遺伝子の断片化が進んでいる.また,古代試料には自然環境由来の微生物のDNAが多く存在している等の特徴もある.したがって,古代DNAを用いた集団遺伝学や分子進化学的解析を精度良く行うためには,実験および情報解析の両面で様々な工夫が必要となる.
本講義では、古代DNA研究の歴史を概説した後に,古代DNA研究における実験と情報解析の手法と課題等について議論する.
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